薬物療法が必要なときとその実際

発達障害のある子どもたちのさまざまな問題についての対応では、理解あるかかわりと環境整備や生活指導が中心となり、多くの場合、薬物治療は必要にはなりません。ただ、問題となる症状のために、家庭生活や集団生活、そして学習することも困難で、二次的な障害がつよく懸念されるとき、あるいは、薬物療法が必要な精神疾患と思われるときは、副作用に注意をしながら、薬による治療を併用することがあります。以下、症状別に治療の実際を簡単に述べます。

1.感情のコントロールがかなりむずかしいとき

まずはどのようなわけで情緒が不安定になっているのか考えます。

[広汎性発達障害あるいはその要素がある場合]

①思い通りにいかない、スケジュールの変更などで見通しがつかない不安からくる反応、②苦手な刺激(特定の音など)への過敏な反応、③昔のつらい経験を思い出しての反応(フラッシュバック)があります。このような場合は、主にドパミン神経の働きを弱めたり、調整したりする薬(抗精神病薬:リスペリドン、ピモジド、ハロペリドール、クロルプロマジン、オランザピン、アリプラゾールなどのいわゆる安定剤)を少量使います。フラッシュバックには脳内のセロトニン作用を強める選択的セロトニン再吸収阻害薬(SSRI:フルボキサミン、パロキセチンなど)が有効なことが多いです(ただし、興奮が強いときは抗精神病薬が必要)。

[多動性障害あるいは多動傾向がある場合]

じっくり考慮することなく怒ってしまうことがあります。思い通りにいかなかったことがきっかけとなることが多いですが、自分が意識せずに迷惑行動をとり、それを注意されたことを被害的に受け止め、怒ってしまうこともあります。このような場合は、中枢神経刺激剤(メチルフェニデート)、あるいは選択的ノルアドレナリン吸収阻害剤(アトモキセチン)により、制御しやすくなることが多いです。過敏や興奮しやすさ、心理的緊張が目立つときに中枢性α2刺激薬の塩酸クロニジンや少量の抗精神病薬を使うこともあります。

[精神的な病気のために感情がコントロールしにくいと思われる場合]

①統合失調症では、幻覚や妄想のためにつよい不安や恐怖感がおこり感情のコントロールを失いますが、抗精神病薬が有効です。②気分障害(うつ病、双極性障害(いわゆる躁うつ病)、躁病)でも感情のコントロールはできにくいです。とくに子どもや大人で情緒面の発達が未熟な人は、うつ状態でも攻撃的になったり、いらいらしたりするといったことがしばしば見られます。このようなうつ病、うつ状態では、従来の抗うつ薬、SSRI、抗不安薬(ベンゾジアゼピン系薬物)、また、躁とうつを繰り返す双極性障害には、一部の抗てんかん薬、ときに抗精神病薬が効果的です。躁状態には、一部の抗てんかん薬のほか、とくに炭酸リチウムが効果を示しますが、腎障害などの副作用があり、血中濃度を見ながら使います。

[てんかんと関連する場合]

てんかん性脳波異常が著しいために情緒不安定になることがあります。稀には怒りの症状がてんかん発作そのものであることもありますが、このような場合は抗てんかん薬(カルバマゼピン、バルプロ酸など)で改善が期待できます。

2.多動、不注意、衝動性が著しいとき

中枢刺激剤であるメチルフェニデート(コンサータ)が約8割で効果を示しますが、活動的な良い面もなくす可能性があるので慎重に使います。副作用に食欲不振、吐き気、頭痛、動悸、興奮、チックなどがあります。また、やや緩やかな作用ですが、選択的ノルアドレナリン吸収阻害剤(アトモキセチン)が効果を示す場合があります。前者は12時間、後者は一日中効果を示します。一般には、前者をまず使用します。

その他、少量の抗精神病薬、抗てんかん薬が有効な場合があります。

3.睡眠障害が著しいとき

入眠剤(抗不安薬と類似点もあるベンゾジアゼピン系薬物)を使うのが一般的ですが、不安や抑うつ状態があって眠れない時は、抗不安薬や抗うつ薬、興奮が著しくて眠れないときは、抗精神病薬を使うこともあります。睡眠作用がつよい抗うつ薬もあります。また、催眠作用のある脳内ホルモンといわれるメラトニンは効果があれば、副作用をあまり心配せずに使えます。自閉症では通常多い夜間のメラトニン分泌が少ないという研究もあります。尚、メラトニンは薬剤として認可されていないため、使えない医療機関が多いと思います。われわれのクリニックでは、説明した後、ご家族やご本人から同意書を得て使用しています。睡眠覚醒リズムがくずれているときは、このメラトニンのほか、ビタミンB12の効果もあることがあります。平成22年、メラトニンと同様の作用を示すラメルテオンが保険薬として発売されましたが、小児での安全性はまだ確かめられていません。

4.不安やうつ症状がつよいとき

不安や恐怖を抑える抗不安薬、あるいは、不安も弱め、抑うつ気分を軽減するSSRI、セロトニンのみでなくノルエピネフリン作用も強めるSNRIなどの抗うつ薬を使います。つよい症状の場合、ときには、抗精神病薬をつかうこともあります。

5.その他 

[強迫性障害]

SSRIが効果的です。

[解離性障害]

症状により、抗不安薬、抗うつ薬、抗精神病薬が使われますが、自己防衛的な意味合いもある症状なので、薬物療法だけでは大きな効果は期待できません。

[チック]

抗精神病薬が使われることが一般的ですが、それほどつよい症状でなければドパミンの少量で効果を示すことがあります。後者の方が、子どもでは副作用の心配がありません。短期間であったり、日常生活や心理面での支障がなければ、薬物治療の必要もありません。

[過呼吸症候群]

一般的には抗不安薬を必要なときに屯用、あるいは持続的に使いますが、うつ症状や不安が強いときは、SSRIも効果的です。

[摂食障害]

SSRI、抗不安薬、抗うつ効果と精神安定効果、また食欲増進作用もみとめられるスルピリドで効果が期待できます。

以上にあげた薬の他、気分を和らげ、不安を軽くするため、副作用の心配が少ない漢方薬を単独あるいは補助的に使用することもあります。




公益社団法人 発達協会王子クリニック 石﨑 朝世