片付けようと思っても体が動かない、片付け始めたのにいつの間にか別のことをしている、どうしても物が捨てられない。こうした悩みは「だらしなさ」や「努力不足」と捉えられがちですが、実はADHD(注意欠如・多動症)の特性による脳の働きが関係している場合があります。自分のタイプを知り、脳の特性に合ったアプローチを取ることで、片付けのハードルを下げることができます。この記事では、片付けに関するADHDの傾向チェックと、タイプ別の具体的な対処法について解説します。
片付けにおいて現れるADHDのサイン
日常生活の中で、以下のような経験が頻繁にないか確認してみてください。これらはADHDの特性を持つ人が片付けに関して抱えやすい悩みです。これらが複数当てはまる場合、脳の特性が片付けを困難にしている可能性があります。
まず、出しっ放しが多いことです。ハサミや爪切りなどを使った後、元の場所に戻さず、その場に放置してしまうことが習慣化しています。次に、探し物が極端に多いことです。家の中で財布や鍵、スマホなどを頻繁になくし、探し回ることに多くの時間を費やしています。
また、片付けを始めても終わらないことも特徴です。リビングを片付けていたはずが、途中で見つけた漫画を読み始めたり、別の場所の汚れが気になって掃除を始めたりして、最初の目的が達成されません。そして、床に物が置かれている状態が常態化しており、足の踏み場がない、あるいは積み上げられた服や書類の山があることもサインの一つです。最後に、行政の手続き書類や支払い用紙など、重要度が高いものでも管理できず、期限を過ぎてしまうことがあります。
脳の特性による苦手分野の理解
ADHDの人が片付けを苦手とするのは、性格の問題ではなく、脳の実行機能という司令塔の働きに偏りがあるためです。具体的には、ワーキングメモリ(一時的な記憶)、抑制機能(衝動を抑える)、シフト機能(切り替える)といった能力に関連しています。
片付けという行為は、実は高度な脳の処理能力を必要とします。「これが必要か不要か判断する」「種類ごとに分類する」「収納場所を決める」「手順を計画する」といった複数のタスクを同時にこなさなければなりません。ADHDの脳は、この同時処理や順序立てた行動が苦手な傾向にあります。
また、ドーパミンという神経伝達物質の不足により、報酬(楽しみや達成感)がすぐに得られない「片付け」という退屈な作業に対して、モチベーションを維持することが困難になります。これらの脳の特性を理解し、「根性」ではなく「工夫」でカバーする必要があります。
捨てられないためこみ型の対策
このタイプは、物に強い愛着を感じたり、「いつか使うかもしれない」という不安から物を手放せなくなったりします。また、目の前から物が消えることで、その存在や記憶まで消えてしまうような恐怖を感じることもあります。
対策としては、まず「迷いボックス」を作ることです。捨てるか残すか即決できないものは、とりあえずこの箱に入れます。箱には日付を書き、半年や1年といった期限を設け、期限内に一度も開けなければ中身を見ずに処分するというルールを作ります。
また、思い出の品については「デジタル化」が有効です。子供の作品や昔の手紙などは、写真に撮ってデータとして保存することで、物理的なスペースを空けつつ、心理的な安心感を確保します。さらに、消耗品のストックは「最大2個まで」と数を決め、収納スペースに入りきらない量は持たないという物理的な制限を設けることも効果的です。
注意が逸れてしまう散らかし型の対策
このタイプは、片付けを始めても、目に入った別のものに興味が移ってしまい、作業が脱線してしまうのが特徴です。結果として、部屋中が中途半端に散らかった状態で終わってしまいます。
対策としては、「タイマー活用法」がおすすめです。15分や30分と時間を区切り、その時間内は「片付け以外のことはしない」と決めます。アラームが鳴るまでは、漫画を読みたくなっても我慢するというゲーム感覚を取り入れます。
また、「一点集中法」も効果的です。部屋全体をきれいにしようとせず、「今日はテーブルの上だけ」「この引き出し一段だけ」と範囲を限定します。もし片付け中に別の場所に移動しなければならない物が出てきても、その場を離れずに一旦「移動用カゴ」に入れ、最後にまとめて移動させます。片付け場所から動かないことで、注意が逸れるのを防ぎます。
やる気が起きない先延ばし型の対策
このタイプは、散らかった部屋の状況に圧倒され、「どこから手をつけていいか分からない」とフリーズしてしまう、あるいは「面倒くさい」という感情が勝ってしまい、着手を先送りにしてしまいます。
対策としては、ハードルを極限まで下げる「スモールステップ」が有効です。「部屋を片付ける」という大きな目標ではなく、「落ちているゴミを一つ拾う」「ペットボトルを捨てる」といった、数秒で終わる行動から始めます。脳は作業を始めると「作業興奮」によってやる気が出る仕組みになっているため、最初の一歩をいかに小さくするかが鍵となります。
また、「ついで片付け」を習慣化します。トイレに立ったついでにゴミを一つ捨てる、お湯を沸かしている間に食器を一つ洗うなど、別の行動とセットにすることで、わざわざ片付けの時間を設ける心理的負担を減らします。
中途半端が許せない完璧主義型の対策
このタイプは、ADHDの過集中やこだわりが強く出る場合に多く見られます。「やるなら徹底的にきれいにしたい」と思い込み、完璧な収納用品を揃えることから始めようとしたり、時間が十分に取れないなら全くやらないという「オールオアナッシング(0か100か)」の思考に陥ったりします。
対策としては、「60点主義」を目指すことです。モデルルームのような完璧な状態ではなく、「生活に支障がないレベル」をゴールに設定します。収納も見栄えより「出し入れのしやすさ」を最優先にし、フタのないカゴに放り込むだけの「ざっくり収納」を採用します。
自分に対して「今日はこれで十分」「ここまで出来た」と、加点法で評価するように意識を変えます。完璧を目指して挫折するよりも、不完全でも少しずつ環境が改善されていく方が、生活の質は確実に向上します。

自力での解決が難しい場合の選択肢
これらの対策を試しても改善が見られず、ゴミ屋敷化して生活や健康に支障が出ている場合は、自力での解決に固執せず、外部の力を借りることを検討してください。
家事代行サービスや整理収納アドバイザーなどのプロに依頼し、一度リセットしてもらうのも一つの手段です。また、背景にうつ病や強い不安障害が合併している可能性もあるため、心療内科や精神科を受診し、薬物療法や認知行動療法などの専門的な治療を受けることも選択肢の一つです。自分を責めすぎず、適切なサポートを求めることは、決して恥ずかしいことではありません。
