私は結婚してから数年たった頃、まさか自分の口から「離婚」という言葉が出るなんて想像もしていませんでした。
でも実際には、仕事と家事の両立に疲れきってしまったり、夫のちょっとした言動が気に障ったりして、気づけばお互いがすれ違う日々を送っていました。
当初は軽い言い合い程度だったものが、いつしか冷戦状態にまで発展し、「もうこの人とは一緒にいられないかもしれない」という思いが湧いてきたのです。そんな険悪な状態が続く中で、私は文字どおり“離婚寸前”の地点に立たされていました。
実を言うと、一時は本当に別居の話まで出ていて、私は両親に「近いうちに実家に戻るかもしれない」と伝えたことさえあります。それくらい当時は心も限界で、夫も相当イライラしていたはずです。
お互いに譲らない、自分の正当性ばかり主張し合う毎日で、今振り返っても「よくあのまま破局しなかったな」と不思議になるほどです。
しかし、ここで結論を言うと、その“危機的状況”を私たちは何とか乗り越えました。
もちろん今でも完璧な夫婦というわけではありませんが、当時と比べればずいぶん仲良くやれていると思います。
今回の話は、そんな私たち夫婦が離婚寸前の崖っぷちからどうやって関係を持ち直したのか、そのときの流れや実際の感情、そして今振り返って感じる「こうしておいてよかった」という点について記録としてお伝えするものです。
あくまで私の個人的な体験ではありますが、もし今まさに同じような状況で悩んでいる方がいれば、少しでも参考になれば幸いです。

私たちが深刻な状態に陥った大きな原因は、やはりコミュニケーション不足だったと思います。
結婚当初はお互いに何をするにも一緒で、細かいことでも話し合って決めていました。仕事が終わる時間に合わせて夕食を一緒に食べたり、週末には一緒にスーパーへ買い物に行ったりするだけでも、自然と会話は生まれるものです。
ところが、夫の仕事が忙しくなるにつれて帰りが遅くなり、私は私で家のことやパートの時間調整に追われる日々に。忙しいというのは言い訳にならないとは思いつつも、気づけば夫婦の会話が著しく減っていました。
そんなある日、私が夕食の献立を考える気力が湧かず、簡単に済ませていいかと夫に聞いてみたら、夫が「それくらいちゃんとやれよ」と冷たく返したんです。普段なら「ごめんね、手抜きだけどいいかな?」で済むところが、私の中ですごい怒りがこみ上げてきました。それだけ日頃の疲れや不満が積み重なっていたんでしょうね。そのまま私も感情的になって夫をなじり、夫は夫で「頑張ってるのは俺だけじゃない」と反論し、あっという間に大ゲンカに発展。食卓をひっくり返すような罵り合いこそしなかったものの、無言のまま夫が部屋に閉じこもり、その晩は顔を合わせることなく寝てしまいました。今思い返すと、そのときはまだ「よくある夫婦ゲンカ」の延長線上でしか考えていなかったのですが、この出来事以降、私たちの気持ちは完全にギクシャクし始めました。

やがて数か月が経ち、お互いに溜まった不満やイライラが爆発する瞬間が増えていきました。特に私が「離婚」という言葉を意識し始めたきっかけは、夫の無関心とも言える態度でした。
夕食を用意しても「ありがとう」も言わず、私がちょっとした体調不良を訴えても「大丈夫?」と聞く程度で、それ以上のケアや心配も見せない。私も意地を張って「察してよ」という雰囲気を出すだけで、素直に助けを求めることをしませんでした。今思えば、お互いに「言わなくても分かってほしい」という甘えがあったのだと思います。
このままでは本当に駄目になる、と最初に動き出したのは私でした。きっかけは、友人が「夫婦問題に強いカウンセラーがいるから話を聞いてもらったら?」と勧めてくれたことです。
私はカウンセリングなんて自分には縁遠いと思っていたのですが、背に腹は代えられない気持ちで、一度だけ行ってみることにしました。そこでは夫を連れてこなくても大丈夫だと言われ、まずは私が一人で話をしてみることになったんです。
カウンセラーの方はとても穏やかな雰囲気の人で、私がこれまで抱えてきた悩みや、夫に対する不満、そして離婚を考えるほど追い詰められた経緯を根気強く聞いてくれました。何が印象的だったかというと、「まずはあなた自身がどうしたいのかを考えてみましょう」と言われたことです。私は夫の態度や言動ばかりを責めてきましたが、自分自身が“理想の夫婦像”に執着していたり、“やってあげているのに分かってくれない”という被害者意識を強く持っていたことに気づかされました。私が心の中で築き上げた期待や不満が、結果的に夫への攻撃的な態度につながっていたんだなと認識したんです。
帰宅後、私は正直に夫に「私がカウンセリングに行ってきた」と伝えました。当然、夫は最初驚いた様子でしたが、私が「もう離婚するかどうかの瀬戸際だと思っていて、少しでも関係を改善したい」と泣きながら打ち明けると、夫は黙ったまま考え込んだようでした。しばらくして、夫が「僕も一度行ってみようかな」とぽつりと呟いたとき、私は少しだけ希望が見えた気がしました。
その後、夫婦二人でカウンセリングを受ける機会がやってきました。お互いにかなり緊張していましたが、カウンセラーの方が間に入ってくれると、意外なほどスムーズに会話ができたのです。私がどれだけ「一人で家事やパートを頑張っているつもりだったか」、そして夫が「仕事のプレッシャーで疲れていて、帰宅後はただ休みたかっただけ」という本音を聞いて、なんだか笑ってしまうほどお互いの気持ちがすれ違っていたことを思い知りました。こんな単純なことなのに、私たちは直接向き合って話そうともせず、ずっと相手を責める形でしかコミュニケーションを取っていなかったのです。
そこから私たちは少しずつ歩み寄るようになりました。離婚の話は一時保留にしようということになり、まずは週に一度でもいいから一緒に夕食を作って食べようとか、夫が疲れている日は私が早めに休めるようにする代わりに、週末には夫が家事を進んで手伝ってみるとか、そういう小さなルールを作っていきました。もちろん最初は慣れないのでぎくしゃくもしましたし、相手に対してイラッとくることがゼロになったわけではありません。でも、そこで思い出したのがカウンセラーの言葉でした。「分かってほしい気持ちをため込むのではなく、言葉にして相手に伝えることを意識しましょう」というアドバイスが、二人の間の衝突を少なくしてくれたんです。
例えば、夕食の準備をする前に「今ちょっと気持ちに余裕がないから、簡単なもので済ませてもいい?」と尋ねると、夫は「うん、じゃあ僕も手伝うよ」と言ってくれるようになりました。これまでなら私が勝手に「察してほしいのに、どうして協力してくれないの!」と苛立っていただけでしたが、きちんと伝えると夫も驚くほど素直に応じてくれることが多かったのです。また、夫も「明日は仕事が早いから先に寝るね」とか「今度の休日は思いっきり休みたい」ということを私に相談してくれるようになり、そのほうがお互いにストレスを感じずに過ごせるということが分かりました。
あれほど「離婚」という言葉を連呼していた私たちが、今ではそうしたフランクな会話を当たり前のように交わせるようになったのは、正直奇跡のようにも思えます。もちろん、現実には些細なケンカもまだ起こりますし、互いの生活リズムや価値観の違いで悩む場面もゼロではありません。それでも「コミュニケーションをあきらめない」という方針を二人で持つようになったことは大きな進歩でした。わざわざカウンセリングに行くのに抵抗を感じる人もいると思いますが、私たちにとっては“客観的な視点”を導入することで救われた部分が大きかったです。
そして、私自身は「夫婦はいつも仲良しであるべき」「全てを分かり合っているべき」という理想論を捨てることができました。それに気づけただけでも、夫に対する見方は大きく変わります。人間ですから、どうしても合わない部分や苦手な部分というのは誰にでもあります。大切なのは、それをお互いにどう折り合いをつけるか、どうサポートし合うかだと思います。そして、もし本当に心から「離婚」という道を選ぶのであれば、それは自分たちにとってより良い選択なのか、後悔しないのかを冷静に考える必要があるでしょう。
私たちの場合、最終的に「もう少し一緒にやってみよう」と決めたことは正解でした。二人の関係性が改善されると、不思議なことにそのほかの家族や友人関係にも良い影響が出てくるんですよね。仕事でも以前より気分よく過ごせるようになりましたし、休日に夫婦で出かける楽しみも思い出してきました。そういう変化を目の当たりにすると、やはり「あと少しで投げ出さなくてよかった」と心から思います。
離婚寸前まで追い詰められた夫婦が、再び手を取り合うのは決して簡単ではありません。でも、私の実体験から言えるのは「完全に終わってしまう前に、できることをやってみてほしい」ということです。話し合いの場を設けたり、専門家の力を借りたり、一度一人でカウンセリングを受けてみたり。ほんの些細なきっかけで、関係が好転する可能性は十分にあります。もしあなたが今、「もうどうしようもない」と思いつめているなら、ぜひ最後にもう一度、相手と向き合ってみてください。言葉にして思いを伝えてみたり、謝れるところは勇気を出して謝ってみたり、ありのままの気持ちを吐き出してみたり。私の場合、それが“離婚回避”に繋がった大きな一歩でした。心から愛し合って結婚した相手だからこそ、完全に諦める前にやれることはきっとあるはずです。